平成21年2月22日、Rは、小学生最後の試合を行うため畳の上に立っていた。試合が始まりRは、果敢に攻めるも相手を捕まえる事が出来ない。そして2分間の試合の終了を告げるブザーが試合場に鳴り響いた。
判定で反対の旗が3本上がり、Rの判定負け・・・・・小学生最後の試合がこのとき終了した。
Rは、静かに礼をして試合場を後にした。
Rとの出会いは、自分がまだ石川県の道場で指導をお手伝いしているときのことだった。
まだ道場を立ち上げてまもない川口先生が、Rを連れて練習にきたときのことだった。最初に見たRのことを自分は高学年だと思っていた。
Rがまだ3年生と聞いた時は、非常に驚かされた。そのくらい大きな子でした。しかしその体とは裏腹にとても気持ちの小さな子で、大きい体を目いっぱい小さくしているような立ち姿がとても印象的でした。
しかし、何回か出稽古に来るたびに、どんどん良い動きになっていき、見違えるような選手になっていった。この成長のスピードに非常には、本当に驚かされた。
Rとの出会いがあってから一年後、自分は結婚の絡みもあり地元福井に戻ることとなった。
それに伴い、川口道場で少年柔道のお手伝いをさせていただくことになったのだった。
その一番最初の練習日に川口道場で練習をおこなっているRを見て一番最初に驚いたのはその打ち込みの綺麗さだった。
大きな体のものはその体が邪魔をして打ち込みがしっかりできていない場合が多い。しかしRの打ち込みは、大人顔負けのとても大きくそしてきれいな打ち込みをしていた。
当時小学4年生で、大きな体と、きれいな打ち込みを持っていたRにはとても大きな期待を抱いていた。
しかし、練習を見ていく中でRに決定的に足りないものを発見した。
それは、厳しい練習を乗り切るための気持ちである。大きな体と裏腹に、非常に気持ちが弱かった。
練習でも、すぐに妥協が入ってしまう。練習がきつくなってくると、自分から倒れるような練習をしてしまっていた。
まずはその練習態度を改善するために、『囲み練習』という、とても精神的にきつい練習を行うことにした。
この練習で戦う相手、それは自分自身である。
きつい練習から逃げ出さず立ち向かうことを覚えさせるためにこのきつい練習を行った。
この練習では、道場生みんなが面くらっていた。
多くの子供が涙を流し、半分悲鳴に近いような声を出しながら練習を行っていた。
しかし、この練習を行っていくにしたがって、何人かではあるが、弱い自分に打ち勝ち、つらいこときついことから、逃げてばかりいた子供達が、立ち向かってくるように変わってきた。
Rもこの変化を起こした一人であった。今までは、途中であきらめ泣きながら練習を途中でやめてしまっていたが、一回相手に立ち向かうことができてからは、きつい時に大声を出し相手にがむしゃらに立ち向かっていくことができるようになってきた。そのRの変化が段々と周りの子供達に伝染していき、この囲み練習を乗り切るきもちができるようになっていった。
弱い自分に打ち勝つ!!このことを一回でも経験することができれば、その後の練習の取り組み方も大きく変化していく。
今までは、完全にやらされていた練習も、一度弱い自分に打ち勝った充実感からかちょっとずつ変化していき、自分から行う練習ができるようになっていった。
泣いてばかりいた子供達もちょっとずつ前向きに柔道を取り組むようになっていった。
少しずつ練習の雰囲気が変わりつつあるなか、Rが4年生の時の夏、川口道場として初の全国大会に挑戦することとなった。
その大会とは、『全日本武道錬成大会』である。柔道の聖地である日本武道館で、年に一度行われる、フリー参加の全国大会。毎年4000人以上の少年少女の柔道キッズ達で争われるとてつもなく大きな大会である。
日頃練習に頑張っている子供達に、全国ではどのような子供達がどのような柔道をするのか、そして何より全国大会の雰囲気を体験してもらいたかった。
この大会で初出場の川口道場低学年が、怒涛の快進撃を見せてくれた。
初戦から厳しい戦いが続いた。その試合のほとんどが大将であったRに勝負がかかるような接戦。一本勝ちしか許されないという試合展開のなか、みんなの期待に応え見事に一本勝ちを収めていきみんなも、『何とかRにつなげば・・・・・』という強い気持ちがいつも以上の力を生み、厳しい戦いを制していった。そんなRの活躍により初出場で全国ベスト8という成績を収めることができた。
この大会での活躍もあり、川口道場全体が大いに盛り上がった。チームとして戦う喜び、つらい練習の先にある喜び、そして全国というものを肌で感じた経験もあり子供たち一人一人にもっと強くなりたい。という欲が出てきた。
気持ちの弱かったRも、自分の活躍によりチームが勝利できた充実感からかポイントゲッターとしての自覚が生まれるようになり、練習でも手を抜くことが少なくなっていた。
そしてこの年、もう一つのフリー参加の全国大会、『醍醐敏郎杯全国少年柔道練成大会』にも出場することとなった。
長野県で行われるこの大会も、フリー参加であるが非常にレベルが高く全国からたくさんのチームが参加してくるとても大きな大会だった。
この大会での初戦、全国でも有名な『松前柔道塾B』さんと対戦することとなった。川口道場は一回戦がシードだったため二回戦でこのチームと当たる。一回戦を見ていたがBチームとはいえ全国的に有名な名門チーム、圧倒的な強さで5-0で勝ち上がってきた。戦前の予想ではかなり厳しいものがあると感じていた。
そしてむかえた初戦で、手に汗握るとてもよい試合をしてくれた。先鋒が一本勝ち、次鋒・中堅が一本負け、副将引き分けで、大将のRに出番が回ってきた。ここで一本勝ちをしてやっと代表戦に持ち込める。相手は体の大きな選手だった。一回戦でも力強い技で一本勝ちを収めていた。その相手との勝負。相手のチームは逃げるようなことをせずこの大将戦も勝負にきた。相手に振り回され危ない場面が何度もあった。
『もうだめか・・・・・』そう思った時、一瞬のすきをついて小外で有効を奪い、そのまま抑え込んで一本勝ち!!なんとか代表戦に持ち込んだ。
代表選も同じ相手と対戦。しかし流れをつかんだRが開始早々払い腰で相手を投げそのまま抑え込んで一本勝ち!!
なんと、逆転であの名門チームから勝利してきた。
次の対戦相手は愛知県でも有名な羽田野道場Aチームとの対戦。この戦いでは、前半で3点を取られてしまい、Rの出番の前に勝負がついてしまった。しかしRは相手をしっかり捕まえて一本勝ち。3-1で敗れたもののRは、この試合に出場したことによりものすごく自信をつけてきた。
このほかの多くの大会や、合同練習でも、Rの活躍は非常に頼もしいものがあった。とくに、Rは大将というポジションが気に入っていたようで、勝負がかかっている大将戦ではいつも以上の力を発揮するような気がしていた。
年を明けて一発目の丸岡の大会や地区の大会できっちり優勝の快進撃を見せ、まさに絶好調のまま次の年度を迎えることとなったのだった・・・・・・・続く
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