川口道場物語第4話 モジモジ王子!?最終話?
前回の続き
モジモジ王子Fが川口道場にきて約1年が経とうとしていた。
自分の苦手な事にはなかなかチャレンジできない F。 何とかその癖をなおさせてやりたいと日々頭を悩ませていました。
そして、ついに恐れていた壁にぶち当たる時がきたのです。
ある日、Fが足を引きずりながら道場にやってきた。話を聞いてみると、学校で怪我をしたらしく、膝の辺りを痛めたらしい。
傷口を見せてもらうと、かなり深くえぐれていたらしく、何針か縫ってあった。
2週間もすれば何とか練習できるようになるかと思っていたのだが、なかなか傷の治りがよくなく、結局1ヶ月ぐらい練習することが出来なかった。
この1ヶ月の期間が、Fの大きな壁となりのしかかってきた。この1ヶ月で、周りの子供達との力関係がすっかり逆転してしまっていたのである。
今まで練習で投げることの出来た子が投げれない。下の学年の子には寝技で抑え込まれる。自分の思いどおりに練習中動くことが出来ないようだ。
Fが休んでいる間もこつこつと努力を続けていた子が力を付けてきており、いつの間にかFより力を付けていた。
Fにとってこれはショックだったと思う。今まで苦労することなく投げることができていた相手を投げることができない上に、やられたことの無い相手にまで投げられる始末。初めての経験にFはとても困惑しているようだった。
しかし、苦手なことに挑戦することのできないモジモジ性格なので今まで簡単に出来ていたことが出来なくなる経験にすっかり自分を見失ってしまっていた。
この状態を見て自分もこの F にどのように接すればよいのか大変悩んだ。自信を無くしている子を、叱り付けてでもがむしゃらに練習させ自信を回復させるキッカケが来るのを待つのか、それとも褒めておだてて自信を回復させる指導をするのか・・・・
色々なやんだ結果一つの答えにたどり着いた。それは、今試合に勝つような技術を教え、勝つことによって自信回復させてあげることではなく、Fと一緒にこの壁をどういうふうに乗り越えればいいのかを考え、何かに挑戦する姿勢を教えてあげるということだ。
このことにより、Fのできないことはやらない、という消極的な考え方を、できないことを何度も何度も挑戦し克服していくという積極的な考え方に変え精神的な成長をサポートしていくという指導方法をしていこうと決めた。
次の練習の日、この日も学年のしたの子に押え込まれたり練習中、皆と一緒の練習についてこれずトイレに吐きにいっていたりと散々な練習をしていたFを、練習後自分のところに呼んだ。
『また怒られるのか』と怯えながら恐る恐る自分の前に座るFに自分は
『今日の練習はどうだった?』
と聞いた。
突然『どうだった』と聞かれてどう答えてよいのかまったく分からないFは、
『何を言っているのだろう?』
と、不思議そうに自分の顔を見つめて首を傾げていた。何も話し出さないFに、そのあと何も聞かない自分。2人の間に沈黙の時間が流れる。そのままの状態で20分。このままでは家に帰れないとおもったFが、自分がダメだったことを、一言二言ボソボソッと話をしだした。その事に対し自分は
『そうか!!今日はこういうことがダメだったんだな』
とFのいったことを同じように言うだけで、
『よしもういいぞ!!』
とFを開放した。Fにとっては何がしたいのかまったく分からなかったと思う。しかしこのようなことを毎回練習のたびに行なうようにした。
最初は、何を答えていいのか分からずモジモジしていたFだったのだが、日を重ねていくうちに何を言っても否定も怒られたりもしないので、だんだんすぐに答えれるようになってきた。答えも簡単な答えだったのがだんだん複雑な内容に変化していき、
『何々が悪かったので次にどうするといいと思う』
というふうに次への課題が言えるようになっていった。
それからというもの練習にも少しずつ変化が見られ、いつも顔色を窺いながら練習していたFがやれとも言わない体落しを使ってみたり、自分で工夫する練習をするようになっていった。
そして、この様に変化していっている丁度良いタイミングのときに、合同練習試合が行われその時、いつも簡単に負けていた子に運よく一本勝ちをすることができた。この練習試合での勝利がFの自信を回復させてくれた。これをキッカケに少しずつ立ち技にも寝技にも良い動きが復活してきた。そしてうれしい変化は、柔道だけではなかった。
それは、練習が終わり皆が帰っていくとき、Fが師範室の前にまで来て、大きな声で
『ありがとうございました!!』
と言ってきた。柔道をやっているものであればこの当たり前の挨拶もFにしてみればちょっとした事件である。これには我々指導者も驚き
『なんや~ F 声出るやないか~』
とうれしい気持ちを抑えながらFに言葉を掛けた。
Fも恥しそうに首を傾けモジモジしていた。
こうして、モジモジ王子に少しずつではあるが変化が訪れていったのである。
とはいえ、Fをはじめとしてモジモジしてしまう事の多い子がたくさんいるモジモジ王国の川口道場。
その中でも一番モジモジするモジモジ王子のFのちょっとした変化の積み重ねが今後の川口道場を大きく変えて行ってくれるだろう。
このお話の続きは、このモジモジ王子 F が大変身をしてハキハキ王子 F になった時また語りたいと思います。
大変身を期待してるぞ、がんばれ F !!
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